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ゆたかな低炭素社会づくり ライフスタイルイノベーションの挑戦

「環境・生命文明社会」で“黄金のジパング”を 石田秀輝・東北大教授に聞く

2014年4月17日

◇地方から新たな価値観を

「地方から『黄金のジパング』を作りたい」と語る石田秀輝・東北大教授

元村 北海道沼田町では、雪が多いというハンディを利用して、雪を使ったさまざまな取り組み(利雪)をやっています。こうした地方の挑戦をどう評価しますか。

石田 だから間を埋めているですよ。利雪、親雪、学雪でしょ。昔はそうやっていた。僕がかかわっている兵庫県豊岡市のコウノトリを呼び戻すプロジェクトでも、まず無農薬で田んぼをやらなきゃいけないし、湿地もなければだめ。そういうものを一個ずつ積み上げていくんですが、そこに新しい企業活動が生まれてくる。沼田町でも同じことが言える。ただ単に雪で町おこしではない。雪を室にして冷房に使うといったことが、人だとか経済的な価値とか、いろいろなものを生み出していく。そういう視点を持ったら、これは昔の価値観を、よりよく生かして間を埋めている。素晴らしいアクティビティーです。それを町おこしという一言でくくっちゃだめ。制約の中でいかに豊かであるかを考えるときに、雪をうまく使うことはどういう価値観を生み出すか。どんな経済的価値を生み出し、雇用を生み出し、公共としての位置づけをどう作っていくかの戦略を作っておかないと、下手すると一過性の町おこしになってしまう。

元村 自然の厳しさとか環境の制約を受け入れた上で、それをコントロールするとか、押さえ込むという発想でないのが素晴らしいですね。

石田 そうですね。日本人は自然観を失っていない。原点は、自然に生かせてもらっていることを知っている、自然を上手に生かして、自然とは戦わない、自然をいなす。そうい構図を持っている。そういうのを基盤にしたときのライフスタイルを作り上げて、改めて雪を見てみると何が見えるか、という概念がすごく大事です。

 英国の産業革命は、自然との決別という概念を作って成功して、大量生産・大量消費を生み出した。日本の産業革命はイギリスより80年ぐらい早いんですけど、例えば,精巧なからくり人形とか、テクノロジーをエンターテインメントに使ったんです。江戸文化の「粋」ですよね。テクノロジーをエンターテインメントに使うと、精神欲があおられるんです。大量生産・大量消費のテクノロジーは、人間の物欲を満足させるだけです。

 環境のことも考えて、心豊かに暮らすといったら、我慢して、テクノロジーもすたれると思うかもしれないけど、全然そんなことはない。我々が作っていかなきゃいけないのは、精神欲をあおるテクノロジーなんです。

元村 異業種の人が集まって、よりよい企業のあり方などを勉強する「ネイチャー・テクノロジー研究会」を続けていますが、参加した人たちは変わりますか?

石田 ガラリと価値観が変わりますね。だからといってどんどん新しいものを生み出せるわけではないけど、戦略の立て方が全く変わっていく。常に人を豊かにするとか、最終的な落としどころは、これで人が豊かになるのか、そういうところをフィーチャーするようになります。

◇東京でも「間」のある生活

元村 これからのエネルギーについてはどう思われますか。

石田 作った電気は売るのではなく、自分で使おうという概念をこれからやるべきだ。沖永良部島の家では、小さい太陽光発電パネルをつけて、1キロワットの電池を“コンデンサー代わり”にして入れている。今でも春から秋にかけては、午後2時くらいまでは電気を一切買わなくて済む。ためながら使って、足らなくなったら買えばいい。これもテクノロジーがなきゃできない。完全な自給自足で電気は使わないということではなく、エネルギーや資源をそんなに使わなくても豊かという概念を作り上げていけばいい。

元村 東京に住んでいると、そういう生活は夢でしかないと思いますね。

石田 僕もそう思っていた。みんな心豊かというと自然とつなげちゃうけど、超えられる制約をいっぱいつくっていけば、みんな豊かになる。例えば、東京でも家庭農園が増えてきていますね。スーパーに行けば一本50円で買えるキュウリを、家庭菜園では300円ぐらいかかるわけです。おまけに曲がっているし、細いし。でもなんでそれでうれしくなるのか。手間ひまなんです。そこに「間」を作っている。僕はそこにビジネスチャンスが山ほどあると思っている。

子供たちと食事を取ったり、僕はそういう繰り返しでとんでもない豊かさを生み出すと思う。2時間家族だんらんの時間ができれば、ほかの部屋の電気を使わないから、家庭のエネルギー消費は15〜20%下がるといわれている。そして笑顔が生まれ、コミュニケーションができる。そういう間の埋め方を東京でもできる。

◇「粋」を世界に発信しよう

元村 東京電力福島第1原発事故の一方で、再稼働を急いだり、原発輸出を積極的に進めようとしています。それは環境・生命文明社会に逆行していると思うが?

石田 それはすごく難しい質問ですね。原子力発電のテクノロジーは、テクノロジーとしてはトラッド(伝統的)で、非常に論理的にあきらかです。ただ使いこなせなかったというのは事実。それは大前提にしなければいけない。なぜ使いこなせなかったかという議論は全然やっていない。原子力はいいか悪いかの議論しかない。要するに世論として、メディアも世論に問いかけているのは賛成ですか反対ですかしかない。これは僕にとってすごく残念ですね。

 もう一つ、原発が止まると、約30%のエネルギーがショートしましたと、本当にショートしたら、本当にこの国は生きていけないのか、という議論が不十分。日本は「3割なくなっても平気で暮らしてます。どうだまいったか」と世界に示す。これが「粋」なんです。

 環境省がいっている「環境・生命文明社会」は、都市から地方、そしてアジアに、テクノロジーからライフスタイルに、という二つの軸を作っている。地方から「黄金のジパング」を作って、それを世界の人に注目されるようにしていかないと。そうすると、昔の成長の概念が崩れて、ビジネス自体が都会から地方へ移っていくようになる。今から手を打って、地方が輝く戦略を打たないといけない。これからは地方の時代。最後は「黄金のジパング」を作りたいんです。

プロフィル

石田秀輝(いしだ・ひでき)

合同会社地球村研究室代表社員。博士(工学)。1953年生まれ。78年、伊奈製陶(現INAX)入社。取締役研究開発センター長などを経て、2004年から東北大学大学院環境科学研究科教授として、「ネイチャー・テクノロジー」を提唱。14年3月、同大学を退官し、沖永良部島に移住。著書に「2030年のライフスタイルが教えてくれる『心豊かな』ビジネスー自然と未来に学ぶネイチャー・テクノロジー」(日刊工業新聞社)、「地下資源文明から生命文明へ 人と地球を考えたあたらしいものつくりと暮らし方のか・た・ち―ネイチャー・テクノロジー」 (東北大学出版会、共著)など。

元村有希子(もとむら・ゆきこ)

毎日新聞デジタル報道センター編集委員。1966年、福岡県生まれ。89年、毎日新聞社に入社。2002年、日本の研究者・技術者の現状を描いた毎日新聞の長期連載「理系白書」の取材班キャップとして、文理の昇進格差や研究不正、理科離れの現状などさまざまな問題提起をしてきた。04年9月、読者との交流の場として開設した「理系白書ブログ」は圧倒的な支持を受け、06年、科学技術に関する優れた報道や出版物などを表彰する「第1回科学ジャーナリスト賞」の大賞を受賞。13年から、BS11「ウィークリーニュースONZE」キャスター。著書に「気になる科学」、「理系思考」(いずれも毎日新聞社)など。