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ゆたかな低炭素社会づくり ライフスタイルイノベーションの挑戦

“逆境の村”の挑戦 岡山・津山「あば村」再生のシナリオ

2014年4月11日

 岡山県最北部、中国山地の山深い集落が津山市阿波(あば)地区だ。同地区は2005年、平成の大合併で津山市となり、115年続いた阿波村の歴史を閉じた。当時住民は約700人で県内で最も小さい村だったが、合併から10年、約570人まで減少し、唯一の小学校や幼稚園が閉校・休園した。そんな逆境の中、地域住民が地域の自然とともに生き、子供たちに引き継いでいく「新しい村」をスタートさせる「あば村(むら)宣言」を発表した。

◇木の駅プロジェクトが始動

間伐材を「木の駅」に持ち込む住民ら=津山市提供

 阿波地区は、岡山県最北部で94%が山林だ。スギやヒノキが昭和30年代に植林され、出荷時期を迎えているが、代替わりした若い山林所有者(山主)は山に入ったことがなく、間伐材も放置されたままで利用されないといった問題を抱えていた。価値がないと思われていた間伐材を燃料として利用する「木の駅プロジェクト」の実証実験が2012年からスタートした。

 実験は、間伐材を山主が集積場(木の駅)まで運び、1トン当たり5000円の地域通貨「こもれび券」と交換する。間伐材はチッパーという機械で破砕して細かいチップにし、木質バイオマス燃料として、地元の温泉施設「あば温泉」のボイラー燃料に使われる。元々二酸化炭素(CO2)を吸収して育ち、それが燃えてCO2を出しても、炭素量を増加させない「カーボンニュートラル」のチップを使用することは低炭素化につながり、さらに間伐材の破砕作業で雇用が生まれ、チップの販売で事業化を目指すというものだ。あば温泉のボイラーは年間300トンのチップが必要となるが、それぞれ1カ月の実験で、初年度は約50トンの間伐材が集まり、13年度は約60トンが集まり、14年度からの本格稼働が決定した。

◇住民出資のLLC設立

「あば村」の温泉施設「あば温泉」=津山市提供
「あば温泉」のチップボイラー=津山市提供
間伐材と交換に渡される地域通貨「こもれび券」=津山市提供

 木の駅プロジェクトは、過疎化のために撤退した村唯一のガソリンスタンドを自主運営するために、住民134人が出資して設立した合同会社(LLC)「あば村」が運営する。この合同会社が村のエネルギー事業部の役割を果たす。そのほか、アヒルを田んぼに放した有機無農薬の「アヒル農法」を実施したり、高齢者を電気自動車で送迎したりといった環境(エコロジー)を切り口にした村(ビレッジ)の再生に取り組む「エコビレッジ構想」を実践するNPO法人「エコビレッジあば」が環境福祉部の役割を果たし、耕作放棄地の引き受けや特産品の商品化、「あば温泉交流館」の運営を行う第三セクター「あばグリーン公社」が農林事業部と交流・発信部担当、自治会が総務部となり、全体を「あば村運営協議会」でとりまとめるという。

 津山市は「木の駅プロジェクト」の本格稼働に向け、温泉の委託条件の中に、間伐材のチップを優先的に使用することを盛り込み、チッパーを市で購入してLLCに貸し出し、「木の駅」となる集積場を舗装するといった支援をする。実験では、地域通貨のみとの交換だったが、使える店舗が少ないとの声があったため、地元商工会発行の商品券も使用する調整を行った。

◇若者たちも注目

 こうした取り組みに注目する若者も増えているという。田舎暮らしにはまった京都出身の大学生が一念発起して定住し、「あば村」の広報役として情報発信を担当。岡山県内の「森や山が好き!」という思いで集まった20~30代の女性がつくったグループで岡山県内で活動中の「yosako」も「あば村」と連携を予定している。同市の皆木憲吾・協働推進室長は「若い世代の山主が少しでも山に行ってもらうきっかけとしたい。また、阿波は県最北部で、鳥取県に抜ける道がない『どんづまり』の地域だが、おかげで豊かな自然が残り、不利を逆手に取った地域づくりとなっている」と話す。

津山市の飯田早苗・新エネルギー環境政策室長と皆木憲吾・協働推進室長

◇エネルギーの地産地消を

 さらに同市は13年11月、「再生可能エネルギー導入推進実行計画」を策定。その中でも太陽光、風力と並んで木質バイオマスの利用を重視している。阿波と隣接する加茂地域には1295ヘクタールの市有林があり、同地域での木質バイオマス発電も検討している。同市新エネルギー環境政策室の飯田早苗室長は「大規模なプラントではなくていい。地域の中で循環できる小規模なもので、エネルギーの地産地消につなげたい」と語る。さらに「低炭素化だけでは続かない。地域活性につながり、売電などで採算が取れることを目指す。売電の価格も一律ではなく、大規模なものと、こうした地域で取り組む小規模のものでは変化をつけることも必要なのでは」と指摘する。

 「あば村」の取り組みについて、飯田室長は「合併で地域の特色が逆に際立ったようだ」と話し、再生可能エネルギー政策でも象徴的な取り組みにしていきたいという。過疎、高齢化といった逆境にめげず、合併によって地域性を失わない「あば村」の挑戦は、地域が輝く時代のさきがけとなるだろう。

文=猪狩淳一
写真=中山和弘