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ゆたかな低炭素社会づくり ライフスタイルイノベーションの挑戦

命をつないだ「作り出すエネルギー」 岩手のバイオディーゼル燃料活用

2014年4月14日

 2011年3月11日、東日本大震災の地震と津波によって大きな被害を受けた岩手県。電気、ガス、ガソリンといったエネルギー、燃料が不足する中、避難所の明かりをともし、救援用の車や重機を動かして、まさに命をつなぐ燃料となったのが、廃食油を原料としたバイオディーゼル燃料(BDF)だった。BDFの利用拡大に取り組んできた「いわてバイオディーゼル燃料ネットワーク」は、震災で改めて学んだ「作り出す資源」の大切さを広めている。

◇障がい者雇用から地域に広がる

いわて生協のBDF作業場で、廃食油の精製をする盛岡アビリティーセンターの利用者

 岩手のBDFの取り組みは04年、知的障がい者授産施設「盛岡杉生園」がきっかけだ。県内で開かれた環境イベントで紹介されたBDFの仕組みで、障がい者の雇用を生みながら、環境保護、エネルギーの再生につながることから、BDF回収・精製のシステムを導入した。同施設では、ホテルや食品会社、飲食店などから安く廃食油を購入し、回収した油を精製して、軽油より安価で販売し、事業化した。

 最初は、施設の作業車などで使用していたが、軽油に比べて、硫黄酸化物(SOx)やディーゼル車特有の黒鉛が少なく、二酸化炭素(CO2)を吸収して育った植物から作った油も燃やして二酸化炭素(CO2)が出ても、炭素量を増加させない「カーボンニュートラル」な燃料であることから、大きな話題となり、自治体や地域住民にも広がっていった。07年、関連団体によって「いわてバイオディーゼル燃料ネットワーク」が設立され、盛岡市を中心に地域による回収活動も広がっていった。当初からBDF活用に尽力してきた障がい者の就労支援事業所「盛岡アビリティーセンター」の菊池満さんは「障がい者の雇用としてスタートしたが、地域のコミュニティーにも広がり、どんどんつながっていった」と振り返る。

◇震災で実感

 BDFの取り組みが進んでいく中、岩手を大震災が襲う。地震と津波、火災などで受けた被害はもちろん、その後、やってきたのが、ガスや電気などライフラインがストップし、道路が壊れ、ガソリンや軽油がなくなって、物流がマヒしたことだ。そのため、支援物資や人の輸送、ガレキの撤去などが、復興への大きな障害となった。

 同ネットワークに参加する農業法人「ピース」の家子秀都(いえこ・みつひろ)代表は「BDFがあり、発電機を回して電気も作れたし、重機を動かすこともできた。自分で作ることができるエネルギーの大切さを実感した」と振り返る。

◇被災地支援で走り続ける

震災時の経験を報告する山田周生さん

 05年に自作のBDF精製機を積んだ車で、廃食油を回収しながら世界一周する「バイオディーゼル・アドベンチャー」を達成したフォトジャーナリストの山田周生さんは、日本一周の途中、岩手県花巻市で大震災に遭い、その場から被災地支援をスタート。「ガソリンスタンドが閉まっていたが、豆腐屋さんから廃油をもらって、内陸部で食料を預かり、被害の大きい沿岸部に届けた。その後も避難所と遺体安置所、お風呂などとの間の送迎など、バイオディーゼル車が大活躍した」と振り返る。山田さんは、そのまま岩手に住み続けながら、自給自足型のまちづくりに取り組んでいる。

 また、06年からトラックにBDFを導入し、09年から自主精製施設も稼働させていた「いわて生活協同組合」では、「盛岡杉生園」などの協力で、BDFを確保し、宮古や大船渡、釜石など沿岸部の各市に支援物資を輸送し、炊き出しにも活用した。震災後12日間の走行距離は延べ約1万1000キロで、生協のBDFトラックは希望の象徴となった。

◇活用の課題も

大船渡市で開かれた「いわてBDF交流フォーラム」

 震災から3年がたった14年3月、津波による大きな被害を受けた大船渡市。仮設住宅が建てられた高台にある施設で、「いわてBDF交流フォーラム」が開かれた。環境NPOや農業法人、福祉団体などの関係者が集まり、BDFの活用について話し合われた。山田さんが世界的な事例紹介をし、発動機メーカーのBDF研究者が専門的な解説を行い、参加者から質問が相次ぐなど熱のこもった会となった。

 特に、軽油引取税でBDFを軽油に混ぜて使うと課税対象となるため、BDF単体で使用しなければならないことなど、BDF活用への課題が指摘された。現在18台の重機をBDFで動かしている家子さんは「エネルギーの地産地消はいいことに決まっている。だからやってみた。やってみれば『なんだやればできる』と思った。BDFで動かすと、天ぷらのにおいがして、回収に協力してくれた人も、自分の油が使われていることが分かる。手応えがあるんです。後は、軽油に混ぜられれば本当に助かるんだけど」と話す。

◇「人の復興」につなげたい

「BDFで『人の復興』を」と語る佐々木明宏さん

 フォーラムのコーディネーターを務めた岩手県地球温暖化防止活動推進センターの佐々木明宏さんは「震災で回収先がなくなったり、BDFの取り組みに大きな影響が出たが、ようやく大船渡のような沿岸部でもこうした会合が開けるようになった。BDFで物資を運んで、避難所に届けることできずなのつながりを感じた。BDFの回収から利用には障がい者も高齢者も子供も参加できる。こうしたつながりで、『人の復興』をしていきたい」と語る。

 CO2削減と障がい者の雇用確保から始まった岩手のBDF利用が、震災によって改めて見直された。「おいしい香りのするエネルギー」であるBDFが復興の灯をともし続けるだろう。

文=猪狩淳一
写真=高尾具成